トレンチコートは一日にして成らず。
戦場に行く将校のために、ある日、突然、生まれたわけではない。
雨風を防ぐ生地の開発に情熱を注いだ発明家がいた。
英国伝統のコートを手本に防寒の工夫を尽くした職人がいた。
先人たちの情熱の日々がルーツを作り上げたのだ。
by COAT BIBLE
Burberry、Aquascutumなどの英国のコートといえばのブランドでは、代表格となるこの二社。
今となってのイメージでは、ラグジュアリーファッションブランドと言ったところですが、その本質はBarbour、 Belstaff然り、機能服です。
どのブランドも、昔テクノロジーの無い時代の英国の冷たい雨風から身を守る為にはどうすれば良いのか、そんな人々の悩みを解決するべく、トーマスバーバリー(Burberry)、ジョンエマリー(Aquascutum)、ジョンバーバー(babour)などが努力した工夫の結晶であると言え、古い物を好きになる私たちはその歴史のリアルさ、いわば ”リアルクローズ”であるという事実に惚れてしまうのだと思います。
Burberry
1856年、21歳のThomas Burberryは「Burberry」一号店を開業。
彼の信念は「衣服は英国の天候から人々を守るものであるべきだ。」というものでした。
彼の一番の功績である「Gabardine(ギャバジン)」の発明は、洋服史にとっても外せない事実となっています。
英国軍では軍支給品の製造メーカーとしてタイロッケンコートやトレンチコートの開発に関わり、また多くの探検家や登山家に愛用され人類にとって未知なる世界を冒険する為の冒険服を作るメーカーとして、そして英国紳士達の洋服屋として、150年以上も愛されてきたブランドです。
また、Burberry社はマーケティングの天才でもありますね。
創業から現在にも渡り多くの人々に、その価値を保ち続け、衰えない価値を提供し続けており、その礎となっているのは歴史と功績が本物である証明をしているからでしょう。
Vintage Burberry Coat Models
そんなBurberry社は現行でもコートを製造、販売していますが、2000年以降のブランド方針の転換により、Burberry’s(筆記体)→BURBERRY(ブロック体)のブランドロゴの表示を変更したことは有名ですね。
僕たちのようなvintage屋が扱うのは、それらの古い旧タグのBurberry達です。
Vintage Burberryの数あるモデルの中でも、特に定番として扱われる代表モデルを中心にご紹介します。
Trench 21、Trench coat
トレンチコートは英国軍の生み出した究極の”機能美”。
塹壕(トレンチ)の兵士たちを冷たい雨風から守るため、全身くまなく機能性が追求され、装飾性が排除されているのにも関わらず、洗練された美を漂わせます。
“キングオブトレンチ”と呼ばれる、Trench21モデル。
現在のBurberryでは廃盤になっている型です。
vintageのBurberryにおけるトレンチコートのモデルで最高上位機種に当たります。
そのオーラは本物たる迫力と風格があります。
Trench21は上質な高密度ギャバジン、ガンフラップ、ストローラッチ、D環、ウールカラー、キャメルヘア混ライナー、ポケットフラップなどトレンチコートとしてのディテールを全て網羅したモデルです。
オールドのBurberryのトレンチコートのモデルでは、ガンフラップの付かない「Kempton」、アメリカ製のモデルで「Trench32」など、他にも名前のついていない様々なスタイルのトレンチを確認してきましたが「Trench21」はどのモデルより精巧で豪華です。
ライナーにも様々なタイプが見られることも面白い点だと思います。
上記写真の一着はカーキ色のライナーと付け襟。
TR21のライナーには、基本、wool 95% camelhair 5%の合成ウールが使用されています。
また、TR21の純正のベルトには中央に5本のステッチが走ります。
ライナーのポケットや裾にTRENCH 21と記載のある紙タグがつきます。
1940年代〜50年代頃のBurberryのTrench Coatです。
個体差が激しく見られることが古い個体の面白いポイントだと思います。
上記の個体では、ストローラッチ(ストームフラップ)が通常より大きく造られています。
〜60年代初頭までに見られる個体では、ワンピースバックと呼ばれるバックプリーツが入らない個体が存在します。
こういった個体は資料的にもマニアの間で価値があります。
トレンチコートだけには限らない話ですが、60年代までのBurberryのコットンギャバジン生地は、特に上質なインド更紗が使用されており、分厚く重厚感のある非常に高密度な生地も魅力の一つであると思います。
トレンチに限らずですが、袖裏に扱われる生地は70年代以降の物では高級なレーヨン生地ですが、60年代以前では表地と共地かサテン生地だったりと年代による造りの差が見られます。
Balmacaan Coat
balmacaan(バルマカーン)、bal collar(バルカラー)と呼ばれるこのコートは1番親しみのある形なのではないかと思います。
soutien collar(ステンカラー)とも呼ばれるこの形ですが、この呼び方は和製英語の為、本国では英国本国ではbalmacaanが主流になります。
balmacaanで呼ぶ方が通な気がするので、僕はこっち推しです笑
ちなみにこのバルマカーンは、上襟の幅が大きく、下襟が小さくなる襟型の名前をbal collorと呼ぶことからこの名前が付きます。
Burberry の生地
Walking pattern
Commander series
Commuter series
Commodore
COMMODOREというRoyal Navy でいう代将、大将が不在のときの複数の艦隊を率いるときに、艦隊長に任じられた少将に与えられた臨時の称号が使われています。
コートと英国軍はトレンチコートの起源があったり歴史的にも深い関わりがあり、その起源にBurberryも携わった仕立て屋の一つです。
そういった背景もあり、こういったコートの名前が付きます。
ウール製の生地でこのモデル名が使用されているイメージです。
Fairview series
FairviewはCotton 100%のポプリン生地で構成されます。
Fairviewは1,2と存在を確認しており、上記の画像は1。
球数としては非常に少ないモデルになります。
Bullera
ウール100%で構成される、ギャバジン生地。
Burellaは、Umbrella(傘)から着想された名前で、高密度に織られた綾織のウールの生地の上から、卵白で撥水加工がされた生地の名前です。
生地は薄手で柔らかく、鈍い光沢感を持った機能性生地です。
Irish Tweed
Irish Tweed(アイリッシュ・ツイード)
アイルランド原産の元々手織りで織られていたホームスパン(家で紡がれた)生地の事です。
ドネガル(ドニゴール)ツイードとも言われます。
生地は分厚く、弾力性があり、風邪を通さない、Burberryのコートでは最強の冬仕様モデルになります。
Loden Coat
ローデンコートは、オーストリアの貴族が着用していた伝統的なハンティング用の防寒コートで、Burberryによる本場オーストリアで仕立てられたアイテムになります。
珍しい特徴をたくさん持ったアイテムですが、特筆すべきはフローティングショルダーと呼ばれる、銃を撃つために肩の動きを良くした独特の袖付けでしょう。バックスタイルにはインバーテッドプリーツと呼ばれる深いプリーツが入るものが最もクラシックなローデンコートのスタイルとなります。
ハンティングの動きを想定した、可動域を拡張するリアルなディテールが面白いです。
ローデンクロスとは、オーストリアのチロル地方で織られていた伝統的なウールの縮絨素材です。
Burberryで扱われるローデンクロスでは、熱湯にウールを通すことで繊維組織を密にし、ふんわりとした風合いを出すための加工法になります。
肌触りが良く、ガシッとしたウールが苦手な方にもオススメできる生地になります。
まとめ
ざっとこんな感じでしょうか。
様々なタイプのコートを紹介してきました。
もちろん全てのモデルを知っているわけではないのですが、ヴィンテージ屋の界隈では生地で名前を分けることが多いです。
ヴィンテージのコートの格好良さは、長い年月をかけて漸く出てきます。
Burberry 年表
1856年、Thomas Burberryは僅か21歳で「Burberry 」一号店をベージングストークにて開業。
1879年、Thomas Burberryが「ギャバジン」を考案。
1888年、「ギャバジン」の特許を獲得。
1901年、新ロゴ「馬上の騎士」が一般公募にて決定。
1912年、Thomas Burberryがデザインしたコート「タイロッケン」が特許を取得。
1914-1918年、バーバリー製トレンチコートは第一次対戦時中に誕生。(トレンチコートを作り出したのは誰で、正確にいつ作り出されたのかは未だ分かっていません。)
1919年、ジョージ5世よりコート・ジャケット部門で王室御用達許可証を拝受。
1924年、コートの裏地に使用する生地柄として、Burberry Checkとされるパターンが一般公募により決定。一大ブームを引き起こす。
1955年、撥水加工業者として、女王陛下エリザベス2世から王室御用達許可証を拝受。
1972年、トレンチコートの製造拠点であるイギリス北部にあるキャッスルフォード工場を正式に獲得。
1990年、ウェールズ皇太子より王室御用達許可証を拝受。